夏に死体探しも世界を救う経験もしなかったけど

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」


「記憶に残っている日ってある?」と問われれば、ちょっと考えてあの日が浮かぶ。 はじめてひとりで寝た日だ。

はじめてひとりで寝たのは、小学校5年生ぐらいだったかと思う。それまでは姉と二段ベットで寝ていた。 それがどういった理由で「今日はひとりで寝る!」と家族に宣言したかは覚えていない。今と同じ8月の夏休みだった。

その日は母の部屋で寝ることになった。母の部屋は昔ながらのミシンや道具が所狭しと置いてある。そのなかにやっと布団を敷いた。横になると、ミシンや家具から見下ろされているようだった。普段と雰囲気がまるで違う部屋。家の中からも外からも物音ひとつしない。暗闇の部屋に自分ひとり。タオルケットの感触を覚えている。

まったく眠れなかった。非日常感に目が冴えてしまっていたのだと思う。「眠れない」ことに驚きつつも、気持ちは落ち着いていた。無理に眠ろうともしなかった気がする。ホラー映画も見れない怖がりだったが、不思議と恐怖心はなかった。 当時はケータイも無かったから、ひたすら横になっていた。眠るのが勿体なかったのかもしれない。眠ればこの非日常感が終わってしまうから。時間が経つのが物凄く遅く感じたあの夜、結局は明け方ごろに自然と寝てしまったかと思う。

夏といえば映画の世界では少年達が死体探しの旅に出たり、世界を救ったり、ひと夏の冒険を繰り広げる。そして大人へと成長していく。自分にそんな経験は無かったけど、あの日、はじめてひとりで寝た日はちょっとした冒険だった。夏は思い出を強くする。